Linuxコマンド - chroot
概要
chrootコマンドは、UNIXおよびLinuxシステムで使用される重要なツールである。
プロセスとその子プロセスのルートディレクトリを変更する機能を持つ。
chrootの主な目的は、指定したディレクトリを新しいルートディレクトリとして設定して、そこから下のファイルシステムツリーのみにアクセスを制限することである。
これにより、特定のプロセスやユーザを隔離された環境で実行することが可能になる。
この機能は、セキュリティ強化、システム修復、クロス開発環境の構築等の様々な用途に活用されている。
例えば、システム管理者がセキュリティ上の理由から特定のサービスを制限された環境で動作させる場合や、開発者が異なるシステム環境をシミュレートしたい場合にchrootが役立つ。
chrootの使用にはroot権限が必要である。
新しいルートディレクトリを指定した後、その環境内で実行するコマンドを指定する。
# 基本的な構文 sudo chroot <新しいルートディレクトリ> <コマンド>
ただし、chrootコマンドには一定の制限がある。
例えば、chrootされた環境からホストシステムのプロセスやファイルシステムに直接アクセスすることはできない。
また、chrootはファイルシステムレベルの分離のみを提供しており、完全な仮想化やコンテナ化とは異なることに注意が必要である。
chrootは強力なツールであるが、適切に使用しないとセキュリティリスクを生む可能性がある。
そのため、使用する場合は十分な知識と注意が必要となる。
特に、chrootされた環境から脱出する方法 (chroot jail breaking) についての理解が重要である。
QEMU-User-Staticのインストール
QEMU-User-Staticは、クロスアーキテクチャの開発者にとって重要なツールである。
これにより、ユーザはchroot環境を作成して、クロスコンパイルされたプログラムを実行することができる。
例えば、ユーザはシステムレベルのエミュレーションのオーバーヘッド無しに、AArch64の実行ファイルを実行することができる。
パッケージ管理システムからインストール
sudo zypper install qemu-arm qemu-linux-user qemu-uefi-aarch64
ソースコードからインストール
ここでは、ARMおよびAArch64向けのQEMU-User-Staticのインストール手順を示す。
なお、他のアーキテクチャにおいても、同様の手順でインストールすることができる。
QEMUのビルドに必要なライブラリをインストールする。
# SUSE sudo zypper install flex bison automake gcc gcc-c++ make gmp-devel gmp-devel-32bit \ glibc glibc-utils glibc-devel-static glibc-devel-static glibc-devel-static-32bit \ glib2-devel glib2-devel-32bit glib2-devel-static ncurses-devel ncurses-devel-32bit \ libxml2-devel libxml2-devel-32bit libpcap-devel-static \ zlib-devel zlib-devel-32bit zlib-devel-static zlib-devel-static-32bit \ readline-devel-static pcre-devel-static pcre2-devel pcre2-devel-static \ libbpf-devel-static sysprof-capture-devel-static xfsprogs-devel perl-Text-Markdown
QEMUのソースコードをダウンロードする。
- QEMUの公式Webサイトから、ソースコードをダウンロードする場合
- QEMUの公式Webサイトにアクセスして、ソースコードをダウンロードする。
- ダウンロードしたファイルを解凍する。
tar xf qemu-<バージョン>.tar.xz
cd qemu-<バージョン>
- Gitからソースコードをダウンロードする場合
git clone https://gitlab.com/qemu-project/qemu.git
cd qemu
git submodule update --init --recursive
QEMUをQEMU-User-Staticとして、ビルドおよびインストールする。
mkdir build && cd build
--disable-system
オプションを指定する時、softmmuターゲットが無効になる。
ただし、softmmuターゲットがいくつかの共有ライブラリに依存していることは知られている。
--static
オプションを指定した場合、これらのsoftmmuターゲットはリンクエラーを引き起こす。
../configure --prefix=<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ> \ --enable-linux-user --static \ --disable-system --disable-brlapi --disable-cap-ng --disable-capstone \ --disable-curl --disable-curses --disable-docs --disable-gcrypt --disable-gnutls \ --disable-gtk --disable-guest-agent --disable-guest-agent-msi --disable-libiscsi \ --disable-libnfs --disable-mpath --disable-nettle --disable-opengl --disable-pie \ --disable-sdl --disable-spice --disable-tools --disable-vte --disable-werror \ --disable-debug-info --disable-glusterfs \ --extra-ldflags=-latomic \ --disable-blobs \ # QEMU 7.x以前の場合 (QEMU 8.0以降は不要) --target-list=aarch64-linux-user,aarch64_be-linux-user,arm-linux-user,armeb-linux-user # ARM, AArch64のみをインストールする場合 # 全てのアーキテクチャをインストールする場合は、当オプションは付加しない # 以下のオプションは任意である --cross-prefix=$(info)- \ --host-cc=clang \ # Clangを使用してビルドする場合 --host=$(clang --print-target-triple) \ # Clangを使用してビルドする場合 --build=$(TARGETPLATFORM= TARGETPAIR= clang --print-target-triple) \ # Clangを使用してビルドする場合 --cc=clang # Clangを使用してビルドする場合 make -j $(nproc) または ninja -C . -j $(nproc) make install または ninja -C . install
QEMU-User-Staticの設定スクリプトをコピーする。
mkdir /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin mkdir -p /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/lib/binfmt.d cp /<QEMUのソースコードがあるディレクトリ>/scripts/qemu-binfmt-conf.sh /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin
QEMU-User-Staticの設定スクリプトを、以下に示すように編集する。
この設定は、変数QEMU_PATH
の設定を除いて、不要の可能性が高い。
vi /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin/qemu-binfmt-conf.sh
# /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin/qemu-binfmt-conf.shファイル
# 344行目あたり
## 編集前
QEMU_PATH=/usr/local/bin
# 編集後
QEMU_PATH=/<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/bin
各アーキテクチャのバイナリフォーマットファイルを生成する。
sudo /<Qemu-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin/qemu-binfmt-conf.sh \ --systemd ALL \ --persistent yes \ --preserve-argv0 yes \ --exportdir /<Qemu-User-Staticのインストールディレクトリ>/lib/binfmt.d/
次に、QEMU-User-Staticに必要なBinfmtを、pkgs.orgのWebサイトからダウンロードする。
Binfmtは、QEMU-User-Staticのバージョンと異なっていても問題無い。
ダウンロードしたファイルを展開する。
rpm2cpio qemu-linux-user-<バージョン>.x86_64.rpm | cpio -id
展開したディレクトリに移動して、ARMおよびAArch64のBinfmtファイルを/<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/binディレクトリにコピーする。
cd qemu-linux-user-<バージョン>.x86_64/usr/bincp qemu-binfmt qemu-arm-binfmt qemu-aarch64-binfmt /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/bin
必要であれば、QEMU-User-Staticのパスを~/.profileファイル等に環境変数PATH
に追記する。
vi ~/.profile
# ~/.profileファイル等
export PATH="/<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/bin:/<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin:$PATH"
例 : openSUSE Tumbleweed (PinePhone)
x86またはx64のPCを使用している場合、ARMバイナリのQEMU変換を設定する。
もし、ARM PCを使用している場合は、この操作は行わない。
# パッケージ管理システムからインストールしている場合 sudo /usr/sbin/qemu-binfmt-conf.sh # ソースコードからインストールしている場合 sudo /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin/qemu-binfmt-conf.sh \ --persistent yes \ --preserve-argv0 yes \ --exportdir /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/lib/binfmt.d/
イメージファイルのルートファイルシステムにおいて、オフセットを確認する。
この時、raw2拡張子の開始位置と1セクタのサイズを乗算して、ルートファイルシステムのオフセットを求める。
sudo fdisk -l <openSUSE Tumbleweedのイメージファイル名>.raw
openSUSE Tumbleweedのイメージファイルをマウントする。
以下の例では、/mntディレクトリにマウントしている。
sudo mount -t btrfs -o loop,offset=<ルートファイルシステムのオフセット 例: raw2拡張子の開始位置と1セクタのサイズを乗算した値> <openSUSE Tumbleweedのイメージファイル名>.raw /mnt sudo mount --bind /sys /mnt/sys && sudo mount --make-rslave /mnt/sys && \ sudo mount --bind /dev /mnt/dev && sudo mount --make-rslave /mnt/dev && \ sudo mount --bind /proc /mnt/proc && sudo mount --make-rslave /mnt/proc && \ sudo mount --bind /dev/pts /mnt/dev/pts # または sudo mount --rbind /sys /mnt/sys && sudo mount --make-rslave /mnt/sys && \ sudo mount --rbind /dev /mnt/dev && sudo mount --make-rslave /mnt/dev && \ sudo mount --rbind /proc /mnt/proc && sudo mount --make-rslave /mnt/proc && \ sudo mount --rbind /dev/pts /mnt/dev/pts sudo cp /run/netconfig/resolv.conf /mnt/etc/
AArch64命令セットをエミュレートするために必要なファイルを、openSUSE Tumbleweed (PinePhone)のマウント先ディレクトリにコピーする。
# パッケージ管理システムからインストールしている場合 sudo cp /usr/bin/qemu-aarch64-binfmt /usr/bin/qemu-aarch64 /mnt/usr/bin/ # ソースコードからインストールしている場合 sudo cp /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/bin/qemu-aarch64 /mnt/usr/bin/
openSUSE Tumbleweed (PinePhone)の環境にchrootする。
sudo chroot /mnt qemu-aarch64 /bin/bash
以下の例のようなコマンドを実行して、正常に動作するかどうかを確認する。
(root権限で実行されるため、sudo
は不要)
zypper ref zypper dup zypper in nano
openSUSE Tumbleweed (PinePhone)の環境を終了する場合は、ターミナルからexit
コマンドを実行した後、
openSUSE Tumbleweed (PinePhone)のイメージファイルをアンマウントする。
sudo umount -dfl /mnt/sys && \ sudo umount -dfl /mnt/dev/pts && \ sudo umount -dfl /mnt/dev && \ sudo umount -dfl /mnt/proc && \ sudo umount -dfl /mnt
例 : Manjaro ARM, Mobian (PinePhone)
x86またはx64のPCを使用している場合、ARMバイナリのQEMU変換を設定する。
もし、ARM PCを使用している場合は、この操作は行わない。
# パッケージ管理システムからインストールしている場合 sudo /usr/sbin/qemu-binfmt-conf.sh # ソースコードからインストールしている場合 sudo /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin/qemu-binfmt-conf.sh \ --persistent yes \ --preserve-argv0 yes \ --exportdir /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/lib/binfmt.d/
イメージファイルのルートファイルシステムにおいて、オフセットを確認する。
この時、img拡張子の開始位置と1セクタのサイズを乗算して、ルートファイルシステムのオフセットを求める。
sudo fdisk -l <Manjaro ARM または Mobianのイメージファイル名>.img
Manjaro ARM、 または、Mobianのイメージファイルをマウントする。
以下の例では、/mntディレクトリにマウントしている。
sudo mount -t ext4 -o loop,offset=<ルートファイルシステムのオフセット 例: img拡張子の開始位置と1セクタのサイズを乗算した値> <Manjaro ARM または Mobianのイメージファイル名>.img /mnt sudo mount --bind /sys /mnt/sys && sudo mount --make-rslave /mnt/sys && \ sudo mount --bind /dev /mnt/dev && sudo mount --make-rslave /mnt/dev && \ sudo mount --bind /proc /mnt/proc && sudo mount --make-rslave /mnt/proc && \ sudo mount --bind /dev/pts /mnt/dev/pts # または sudo mount --rbind /sys /mnt/sys && sudo mount --make-rslave /mnt/sys && \ sudo mount --rbind /dev /mnt/dev && sudo mount --make-rslave /mnt/dev && \ sudo mount --rbind /proc /mnt/proc && sudo mount --make-rslave /mnt/proc && \ sudo mount --rbind /dev/pts /mnt/dev/pts sudo cp /run/netconfig/resolv.conf /mnt/etc/
AArch64命令セットをエミュレートするために必要なファイルを、Manjaro ARM、または、Mobian(PinePhone)のマウント先ディレクトリにコピーする。
# パッケージ管理システムからインストールしている場合 sudo cp /usr/bin/qemu-aarch64-binfmt /usr/bin/qemu-aarch64 /mnt/usr/bin/ # ソースコードからインストールしている場合 sudo cp /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/bin/qemu-aarch64 /mnt/usr/bin/
Manjaro ARM、または、Mobian (PinePhone)の環境にchrootする。
sudo chroot /mnt qemu-aarch64 /bin/bash
以下の例のようなコマンドを実行して、正常に動作するかどうかを確認する。
(root権限で実行されるため、sudo
は不要)
# Manjaro ARM pcman -Syyu pacman -S --needed nano # Mobian apt update apt upgrade
※注意
Manjaro ARMのシステムをアップデートする時、以下に示すようなエラーが発生する場合がある。
error: <インストールするパッケージ名>: signature from "Arch Linux ARM Build System <builder@archlinuxarm.org>" is unknown trust
この時、/etc/pacman.confファイルを以下に示すように編集する。
sudo vi /etc/pacman.conf
# 42行目あたり
#SigLevel = Required DatabaseOptional # コメントアウトする
SigLevel = Optional TrustAll # 追記する
Manjaro ARM、または、Mobian (PinePhone)の環境を終了する場合は、ターミナルからexit
コマンドを実行した後、
Manjaro ARM、または、Mobian (PinePhone)のイメージファイルをアンマウントする。
sudo umount -dfl /mnt/sys && \ sudo umount -dfl /mnt/dev/pts && \ sudo umount -dfl /mnt/dev && \ sudo umount -dfl /mnt/proc && \ sudo umount -dfl /mnt
例 : Raspberry Pi OS (AArch64)
x86またはx64のPCを使用している場合、ARMバイナリのQEMU変換を設定する。
もし、ARM PCを使用している場合は、この操作は行わない。
# パッケージ管理システムからインストールしている場合 sudo /usr/sbin/qemu-binfmt-conf.sh # ソースコードからインストールしている場合 sudo /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/sbin/qemu-binfmt-conf.sh \ --persistent yes --preserve-argv0 yes \ --exportdir /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/lib/binfmt.d/
イメージファイルのルートファイルシステムにおいて、オフセットを確認する。
この時、img拡張子の開始位置と1セクタのサイズを乗算して、ルートファイルシステムのオフセットを求める。
sudo fdisk -l <Raspbian OS (AArch64)のイメージファイル名>.img
Raspberry Pi OS (AArch64) のイメージファイルをマウントする。
以下の例では、/mntディレクトリにマウントしている。
sudo mount -t ext4 -o loop,offset=<ルートファイルシステムのオフセット 例: img拡張子の開始位置と1セクタのサイズを乗算した値> \ <Raspberry Pi OS (AArch64) のイメージファイル名>.raw \ /mnt
AArch64命令セットを動作させるために必要なライブラリを、Raspberry Pi OS (AArch64) のマウント先ディレクトリにコピーする。
# パッケージ管理システムからインストールしている場合 sudo cp /usr/bin/qemu-aarch64-binfmt /usr/bin/qemu-aarch64 /mnt/bin/ # ソースコードからインストールしている場合 sudo cp /<QEMU-User-Staticのインストールディレクトリ>/bin/qemu-aarch64 /mnt/usr/bin/
chrootコマンドを実行して、Raspberry Pi OS (AArch64) を起動する。
sudo chroot /mnt qemu-aarch64 /bin/bash
終了する場合は、Raspberry Pi OS (AArch64) のイメージファイルをアンマウントする。
sudo umount -dfl /mnt/sys; \ sudo umount -dfl /mnt/dev/pts; \ sudo umount -dfl /mnt/dev; \ sudo umount -dfl /mnt/proc; \ sudo umount -dfl /mnt