電子部品 - MOSFETの絶対最大定格

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概要

FETには、絶対最大定格と呼ばれる絶対に超えてはならない値が存在する。
もし、絶対最大定格を超えた場合、FETの故障や回路動作不良の原因にもなる。
そのため、設計者はいかなる状況でも定格以下で動作する回路を設計しなければならない。

絶対最大定格は、他の特性と関連があるものが多く、
例えば、定格電流10[A]、定格温度105[℃]だとしても、これらは同時に許容できない。
なぜなら、温度は上がれば上がるほど、定格電流は低下するからである。

データシートに記載がある数値は、ある条件において許容できる定格のことである。
絶対最大定格を確認するためには、データシートの数値だけでなく、グラフと照らし合わせて想定する条件下で問題無いことを確認する必要がある。

ここでは、MOSFETの絶対最大定格の項目について記載する。


ドレイン・ソース間電圧VDSS

ゲート・ソース間を短絡した時、ドレイン・ソース間に印加することができる電圧のことである。
ドレイン・ソース間において、定格を超えた電圧が印加されると、降伏領域に入り、大電流が流れることでFETが故障する可能性がある。

VDSSは温度に依存しており、ジャンクション温度が上昇するほど降伏電圧V(BR)DSSの値が上昇する。
変化率については、データシートの降伏電圧-ジャンクション温度のグラフを確認する。

例えば、ジャンクション温度が25[℃]で降伏電圧が60[V]、125[℃]で降伏電圧が1.1倍になる場合、
と計算することができる。


許容損失PD

許容損失とは、FETが連続的に消費させることができる損失の最大値のことである。
損失とは、電流×電圧で求めることができるが、この値がどのくらいまで許容できるかを示す。

  • PD
    許容損失
  • PDmax
    許容損失-絶対最大定格値
  • Tj
    ジャンクション温度
  • Tjmax
    ジャンクション温度-絶対最大定格値(例 : 105[℃])
  • Ta
    周囲温度(例 : 25[℃])
  • RthJC
    熱抵抗


許容損失は、ジャンクション温度、過渡熱抵抗から計算することができる。
以下に示す式を用いて計算すると、データシートの許容損失と同じ値になっていることが分かる。


また、許容損失はFET温度によって変わり、温度が上昇するほど許容損失が低下する。
上式で求めた許容損失と許容損失ディレーティングカーブのグラフから、ある温度における許容損失を計算することができる。

例えば、ジャンクション温度が100[℃]として計算する。


上式を変形して、PDについて解く。


したがって、許容損失は47.6[W]となる。


ドレイン電流ID

ドレイン・ソース間に流れる電流をドレイン電流という。
一般的に、直流電流の定格値をID、パルス電流の定格値をIDPと定義することが多い。

ドレイン電流は、ドレイン・ソース間のオン抵抗RDS(on)の損失によって定格値が決まる。
許容損失とオン抵抗は様々な条件で値が変わるので、使用環境に応じた値で計算するとドレイン電流を求めることができる。



ゲート・ソース間電圧VGSS

ドレイン・ソース間を短絡する時、ゲート・ソース間に印加することができる最大電圧値のことである。
ゲート・ソース間の絶対最大定格値は、ゲートとチャネル間にあるゲート絶縁膜の耐量によって決まる値である。
FETは、ゲート・ソース間電圧が高いほどオン抵抗が下がる特性を持っている。

FETを駆動するためには、ゲート・ソース間に電圧を印加しなければならないが、
ゲート・ソース間電圧の絶対最大定格を超えるとFETが破壊される可能性があるため、注意が必要である。


アバランシェ電流IASとアバランシェエネルギーEAS

アバランシェ状態で許容できる電流のピークの最大値をアバランシェ電流IAS
アバランシェ降伏時の最大許容損失エネルギーをアバランシェエネルギーEASという。

MOSFETがスイッチング動作を行うと、回路に含まれるインダクタンスの影響で、ターンオフ時にサージ電圧がドレイン・ソース間に印加される。
サージ電圧がVDSSを超えると降伏状態に入り、アバランシェ電流が流れる。
この時、アバランシェ電流、アバランシェエネルギーが定格を超えるとFETが破壊される。


ジャンクション温度Tjと保存温度温度Tstj

MOSFETの温度が許容される温度の最大値をジャンクション温度Tj
電圧を印加しないで保存できる温度の最大値を保存温度Tstjという。

これらの温度は、MOSFETを構成する材料と信頼度によって決まり、高い温度で使用し続けると故障だけでなく劣化も促進される
そのため、できるだけFETの温度上昇を抑えて使用するのが好ましいが、どうしても負荷が掛かる場合は、
放熱フィンを取り付けて冷却効果を高める必要がある。