電子部品 - AC-DC電源
概要
AC-DC電源とは、例えば、携帯端末の充電用アダプタなど、AC電圧(交流電圧)からDC電圧(直流電圧)に変換するものである。
一般的な家庭やオフィスには交流の電源が供給されるが、電気製品に組み込まれている多くの電子回路は5[V]や12[V]等のDC電圧で動作する。
そのため、AC(交流)からDC(直流)に変換しなければならず、電気製品にはなくてはならないものだ。
電気製品の中には、白熱電球やモータ機器等AC電圧で駆動し、AC-DC変換を必要としない機器もあるが、
最近は省エネ・節電意識の高まりから、白熱電球はDC電圧で駆動するLED照明に置き換わりつつあり、
モータ機器もDC電圧で動作する制御回路(マイコン回路等)を使用して、より電力効率の良いインバータ制御が行われるようになってきている。
そのため、AC-DC電源の必要性はより増しているといえる。
AC送電する理由
発電所で作られた電気は、都市部等の消費地に送電されるが、通電によって損失が発生する。
この損失を抑えるために高電圧(数万~数十万[V])で送電されるが、電圧が高いためにそのままでは利用することができず、変圧(降圧)しなければならない。
この変圧をDCよりACの方が簡単に行えるため、AC送電が行われている。
ただし、DC送電はAC送電に比べて最大電圧値が低いこと、無効電力が発生しない等のメリットがあり、
今後の技術革新によってDCでの変圧が容易になると、DC送電の時代がやってくるかもしれない。
AC-DCの変換方法
AC電圧からDC電圧に変換する主な方法は、以下の2種類存在する。
- トランス方式
- スイッチング方式
下表に、両方式の特徴を示す。
両方式のメリット・デメリットは相反しており、製品ごとに使い分けられている。
例えば、トランス方式は、回路が簡単・安価・ノイズが少ない等のメリットから、小型の充電アダプタやオーディオ機器電源に採用されている。
しかし、最近では、携帯端末の普及から小型・軽量・省エネ・高効率要求の高まりがあり、多くの電気製品の電源がスイッチング方式を採用している。
トランス方式 | スイッチング方式 |
---|---|
○回路が簡単 | ×回路が複雑 |
○ノイズが少ない (安定化がリニアレギュレータの場合) |
×スイッチングノイズがある |
○安価 | ×高耐圧部品が多いため、少し高価 |
×体積や重量がかさむ | ○小型・軽量化が可能 |
×発熱が大きい | ○発熱が少ない |
×変換効率が少し悪い | ○変換効率が良い |
AC-DC変換方法 : トランス方式
トランス方式の回路構成、各部の概略波形を下図に示す。
この方式では、以下の手順でAC-DC変換を行う。
- まず、AC電圧をトランスで変圧する。
- 次に、整流器を使って整流する。(上図では、ブリッジダイオードによる全波整流)
- 最後に、平滑コンデンサを使用してリップルの少ないDC電圧を生成する。
トランスを使用することから、安全規格等で要求される絶縁構成を実現できる。
変換前のAC電圧をVAC、変換後のDC電圧をVDC、トランスの1次巻線数をNp、2次巻線数をNsとすると、次式が成り立つ。
上式の通り、VDCはVACに比例して変動するので、安定した出力電圧を得るためには、
AC-DC変換後にリニアレギュレータやDC-DCコンバータ等の電圧レギュレータが必要になる。
トランス方式で使用されるトランスは、入力電源周波数(50 / 60[Hz])で動作する低周波タイプで、商用トランス等と呼ばれる。
構造はコアと呼ばれる鉄芯と1次と2次の巻線から成り、コアには主にケイ素鋼板が使用される。
大きさ、体積は電源の出力容量に比例し、大容量のものは大型で重くなる。
ブリッジダイオード整流器は4個のダイオードで構成される。
現在は、4個のダイオードが整流用に結線されて1つのパッケージに入ったものが使われる場合がほとんどである。
パッケージの形状としてはSIPやDIPなどがある。
コンデンサは主に電解コンデンサを使用する。
必要な容量は出力容量やリップル電圧によって変わるが、おおよそ数100[uF]から数1000[uF]になる。
AC-DC変換方法 : スイッチング方式
スイッチング方式には、トランスを使用するコンバータ(主に絶縁タイプ)とインダクタを使用するコンバータ(非絶縁タイプ)がある。
トランスを使用する絶縁タイプ
トランスを使用する絶縁タイプの代表的な回路構成、各部の概略波形を下図に示す。
この方式では、以下の手順でAC-DC変換を行う。
- AC電圧の整流・平滑を行い、DC電圧を生成する。
- 次に、このDC電圧でスイッチング素子をオン / オフ(スイッチング)することにより、チョッピング(切り分け)を行い、
高周波トランスを介して2次側にエネルギーを伝達する。
この時、オン / オフ周波数(スイッチング周波数)は、例えば、100[kHz]等の入力電源周波数(50 / 60[Hz])に比べて高い周波数を使用して、
上図のような方形波のAC電圧に変換する。 - この高周波のAC電圧を高速の整流ダイオードで整流後(ここでは1つのダイオードを使った半波整流)、出力コンデンサで平滑してDC電圧を生成する。
このDC電圧は、制御回路部にてPWM制御(詳細は後述)等により任意の設定電圧として出力される。
つまり、AC電圧をそのまま整流・平滑してDC電圧に変換した後、そのDC電圧を再度高周波のAC電圧に変換して、再び整流・平滑して所望のDC電圧に変換する。
使用するトランスは数10[kHz]~数100[kHz]で動作する高周波タイプで、スイッチングトランス等と呼ばれる。
基本的な構造は、先のトランス方式のトランスと同じだが、コアは高周波用途のフェライトが一般的である。
1次側の部品(ブリッジダイオード、入力コンデンサ、スイッチング素子)はAC入力電圧(AC100[V]やAC230[V]等)に対応した仕様のものが必要になる。
また、スイッチング素子は、スイッチング電源用のMOSFETが主流である。
2次側の整流ダイオードは、高速スイッチング用のFRD(高速リカバリダイオード)やSBD(ショットキーバリアダイオード)、
出力コンデンサは、スイッチング電源用の低インピーダンスタイプの電解コンデンサが一般的である。
出力電圧を安定にする制御回路は、トランジスタやオペアンプ等の個別素子を使用して構成すること(ディスクリート構成)も可能だが、
安定化制御や様々な保護機能も備えていることから、最近では電源ICを使用することが多くなっている。
インダクタを使用する非絶縁タイプ(降圧)
インダクタを使用する非絶縁タイプ(降圧)の回路構成、各部の概略波形を下図に示す。
この方式では、以下の手順でAC-DC変換を行う。
- AC電圧を整流・平滑を行い、DC電圧を生成する。
- 次に、このDC電圧でスイッチング素子をオン / オフすることによりチョッピング(切り分け)を行う。
この時、オン / オフ周波数は、例えば、100[kHz]等の入力電源周波数(50 / 60[Hz])に比べて高い周波数を使用して、上図のような方形波のAC電圧に変換する。
具体的には、オン時にインダクタを介して負荷に電流が流れ、インダクタにもエネルギーが蓄積される。
オフ時にインダクタに蓄えられたエネルギーがダイオードを通して負荷に供給される。 - この高周波のAC電圧を整流・平滑してDC電圧を生成する。
このDC電圧は、制御回路部にてPWM制御等により、任意の設定電圧として出力される。
ここで、代表的な制御方法であるPWM方式において、スイッチングによりDC電圧を降圧する仕組みを記載する。
PWM(パルス幅変調)とは、周期(周波数)を一定としてオンとオフの時間(デューティサイクル)を調整する制御方法である。
下図に、PWM方式のイメージを示す。
例えば、DC電圧100[V]をPWMでスイッチングする場合、オン時間を1周期の25[%]で切り分ける場合、
整流・平滑(平均化)すると、電圧は25[%]、DC電圧25[V]になるというイメージである。
同様に、50[%]、75[%]にした場合には、それぞれ50[V]、75[V]となる。
実際には、DC-DC変換は電力変換であり変換効率を加味しなければならず、上図のようにはならないが、このような原理に基づいている。