電子部品 - 加速度センサ
概要
加速度センサとは、加速度の測定を目的とした慣性センサである。
振動センサと異なり、直流(DC)の加速度が検出可能であるため、重力を検出することもできる。
加速度を測定し、適切な信号処理を行うことによって、傾き・動き・振動・衝撃といった様々な情報が得られる。
加速度センサには多くの種類があり、加速度の検出方式によって大別される。
近年のマイクロマシン技術やMEMS技術の発達により、半導体微細加工技術を応用した加速度センサは、大量かつ安定的に生産できるようになった。
加速度センサの用途が拡大した背景には、加速度センサ自体の技術的革新があったといえる。
最近では、使用用途の要求を加速度センサに組み込んだ製品、例えば、ADコンバータを内蔵した製品や、
加速度センサに一定の閾値以上の加速度が加わった場合に割り込み信号を出力するようなアルゴリズムを内蔵した製品が登場している。
ここでは、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を応用したMEMS加速度センサについて記載する。
加速度センサの分類
一般的に、約20[G]以下の測定範囲をもつ加速度センサを低G加速度センサ、約20[G]以上の測定範囲をもつものを高G加速度センサと呼ぶ。
低G加速度センサは、重力・傾き・人の動きの検知に適しており、高G加速度センサは、主に衝撃の検知に使用される。
MEMS型加速度センサは、加速度を検出する検出素子部と、検出素子からの信号を増幅・調整して出力する信号処理回路で構成され、
検出素子部の方式によって下表のように分類される。
チップ内部で補正を掛けている製品も多く存在するため、個々の製品仕様と表1の説明が必ずしも一致するわけではないが、
加速度センサの特性は、検出素子部の特性に大きく左右される。
よって、センサを選定する場合は、検出原理を理解して、用途に適した加速度センサを選択することが重要である。
静電容量検出方式 | ピエゾ抵抗方式 | 熱検知方式 | |
---|---|---|---|
原理 | センサ素子可動部と固定部の間の 静電容量を検出する。 |
センサ素子可動部と固定部を繋ぐバネ部分に 配置したピエゾ抵抗素子により、 加速度によってバネ部分に発生した歪みを検出する。 |
ヒータにより筐体内の熱気流を発生させ、 加速度による対流の変化を熱抵抗等で検出する。 |
特徴 | センサ素子部はシリコンやガラス等の 安定した物質で構成される。 |
比較的構造が単純で、 ピエゾ抵抗素子の出力が大きい。 |
可動部を持たないので衝撃に強い。 パッケージ容積と特性がトレードオフの関係にある。 |
精度 | 安定した物質で構成されるので、 温度特性に優れる。 |
原理や構造的な原因により、 温度特性の直線性・感度の直線性がやや劣る。 共振周波数が低い場合、外部振動に影響がある場合が存在する。 |
常温でのノイズは低いが、感度による温度特性が低い。 原理的な要因により、測定周波数帯域が狭い。(数10[Hz]) |
静電容量型加速度センサの検出原理
加速度センサの構造および検出原理について、アナログデバイセズ社で用いられている静電容量検出方式の低G加速度センサを例に記載する。
ニュートンの法則では、物体に働く力は次式(1)で表すことができる。
ここで、Fは質量mの物質に働く力で、aは加速度である。
… (1)
バネと重りで構成される系を考えた場合、Fは次式(2)で表すことができる。
kはバネ係数、xはバネの伸縮距離である。
… (2)
式(1)と式(2)の連立方程式を解くと、加速度aは下式のようになる。
式(3)より、加速度は、既知のバネ係数と質量のある重りの移動距離を計測することで計算ができることが分かる。
… (3)
下図に、加速度の検出原理を示す。
アナログデバイセズ社の静電容量型加速度センサは、(3)式を利用して、
重りの移動距離を計測することによってセンサに加わっている加速度を出力するように設計している。
下図に、代表的な低G加速度センサの検出素子部の模式図を示す。
検出素子部には、加速度によって動く可動部(重り)とバネ、その移動距離(動き)により静電容量変化を発生させるための櫛歯状電極が形成されており、
可動マスに形成された可動電極1本あたりにつき、2本の固定電極に挟まれる形で電極の単位セルを形成している。
下図に、内部信号処理の流れを示す。
単位セルの2本の固定電極に、それぞれ逆相のクロック信号を印加することで、
加速度によって可動電極がどちらかの固定電極に近付いた時、近付いた固定電極に印加されているクロックと同相の電荷変化が可動電極に発生する。
この電荷の変化を増幅して同期検波・整流を行うことで、可動部の移動距離、つまり加速度に比例した電圧出力を得ることができる。
加速度センサが搭載されている機器
加速度センサは大きく分けて、重力・振動(動き)・衝撃の3つの現象を測定できる。
それぞれの現象をうまく検出することで、加速度センサの出力信号は実際の機器に役立てられている。
例えば、携帯機器画面の表示向きを使用環境に合わせて変更する機能(縦横検出)では、
重力を計測して、加速度センサの傾きを計算することで実現できる。
下図に、加速度センサの検出対象と代表的な機器を示す。
民生機器では、加速度センサを搭載して各機能を実現することにより新たな付加価値を付与している。
加速度センサを搭載している代表的な民生機器には、ゲーム機、スマートフォン、デジタルカメラ、プロジェクタ、PC等がある。
スマートフォンでは、縦横検出により画面の表示向きの切り替えを行う機能や、
ある特定の衝撃(タップ等)を検出して特定の機能を動作させるといった形で利用している。
デジタルカメラでは、カメラの傾きを画面に表示するといった利用方法や、前述の衝撃を検出して様々な機能を動作させるといった形で利用している。
プロジェクタでは、加速度センサの傾きを検出して、プロジェクターが傾いていても画面が台形にならないように補正を掛けている。
PCでは、衝撃を検出したらHDDのヘッドを退避させてHDDドライブを保護するといった形で利用されている。
ここで挙げた機器や機能は一例だが、加速度センサの信号は、搭載する機器によって様々な形で利用されており、今後もその利用は拡大していく。
加速度センサの選定手順
最適な加速度センサを選定するためには、まず、実現したい機能を明確にすることが大切である。
例えば、HDD保護に加速度センサを使用する場合でも、
据え置き型のHDDドライブのようにある一定の加速度が加わった場合にヘッドを退避させるのか、
ポータブル機器のように自由落下を検出した場合にヘッドを退避させるのか、
状況に合わせて機器や機能のイメージを明確にする必要がある。
実現したい機能が明確になると、加速度センサによって測定する現象の絞り込みができる。
前述の例で、一定の加速度が加わった場合にヘッドを退避させる場合は"衝撃"、
自由落下時にヘッドを退避させる場合は"動き"の検出を行う必要がある。
測定対象が明確になれば、測定対象が何[G]程度の加速度を持ち得るか、周波数はどの程度かといった内容から、
加速度センサに必要な測定範囲と周波数応答が判断できる。
加速度センサに必要な測定範囲と周波数応答が分かれば、後は、機器や機能に要求される誤差範囲から最適な加速度センサを選択する。
加速度センサは、近年の技術革新により使用用途を拡大している。
自動車のエアバッグから始まった加速度センサは、今ではゲーム機や携帯電話にも搭載され、今後もその用途は拡大していく。
さらに、加速度センサ自体の技術革新だけではなく、使用用途の要求を取り入れた形の加速度センサが多く開発されていくことになる。