第7回 - ベイズの定理
概要
推定統計を学習する準備として、確率の基礎に関する次の事項を記載する。
- 条件付き確率
- ベイズの定理
条件付き確率
条件付き確率とは、2個の事象AとBがあるとき、既に事象Aが起きた場合に、事象Bも合わせて起きる確率を条件付き確率P(B|A)という。
P(B|A)
P(左 : 合わせて起きる事象 | 右 : 既に起きた事象)
条件付き確率の式(事象Aが起きた場合に、事象Bも合わせて起きる条件付き確率)は、次式で表される。
条件付き確率P(B|A)と同時確率P(A∩B)の違い
- 条件付き確率P(B|A)
- 全事象をAのみとしている。
- つまり、事象Aが起きた場合の中で、さらに事象Bも起きる確率P(B|A)を考える。
- 同時確率P(A∩B)
- 全事象をUとしている。
- つまり、事象Aが起きた場合のみに限定せず、A以外が起きる場合も合わせた上で事象AとBが同時に起きる確率を考える。
ベイズの定理
以下に、ベイズの定理の導出過程を示す。
条件付き確率の計算式の2式
上式より、次式が求まる。
さらに、上式をまとめると次式となる。
あるいは下図に示すように、事象Aが起こるという条件のもとで、K種類の事象(これらは互いに排反とする)が起きる時、
事象Aが起きるという条件のもとで、事象Biが起きる条件付き確率は、次式から求められる。
また、である。
これは、上図のそれぞれの事象における赤い事象Aの部分を足し合わせたものだと考えることができる。
ベイズの定理とは、先に事象Bが起きた場合に、後の事象Aが起きる場合の確率P(A|B)が分かっている場合において、
逆に後の事象Aが起きたと分かっている時に、先の事象Bが起きる場合の確率P(B|A)を与えるものである。
ベイズの定理の例
あるガンの検査装置の性能が以下の通りとする。
ここで、検出したを、癌であるを、癌ではないをとする。
- 癌である被験者を検査して、癌と検出した確率
- P(検出した | 癌である) = 0.9
- 癌ではない被験者を検査して、癌と検出した確率
- P(検出した | 癌ではない) = 0.1
- 癌である確率
- P(癌である) = 0.001
- 癌ではない確率
- P(癌ではない) = 0.999
この時、検査装置が検出した時に被験者が癌である確率P(ガンである|検出した)を求めよ。
検査装置が"検出した"事象には、"本当にガン"場合と"ガンでない"場合の両方が含まれる。
そのため、"検出した"事象(下図の赤枠)を全体事象とみなす時、"本当に癌である"である確率を求める。
以下に、求める手順を示す。
- "検出した、かつ、癌である" の確率を求める。
- P(検出した ∩ 癌である) = P(検出した | 癌である) × P(癌である)
- "検出した"事象(上図の赤枠)の範囲の確率を求める。
- P(検出した)
- P(癌である | 検出した)を求める。
- P(癌である | 検出した) = P(検出した ∩ 癌である) / P(検出した)
ベイズの定理より、下式を求める。
P(癌である | 検出した) = P(検出した | 癌である) × P(癌である) / P(検出した)
まず、P(検出した ∩ 癌である)を求める。
次に、P(検出した)の確率の値は無いため、和事象の確率の公式を用いて求める。
P(検出した) = P(検出した ∩ 癌である) + P(検出した ∩ 癌ではない)
= P(検出した | 癌である) × P(癌である) + P(検出した | 癌ではない) × P(癌ではない)
最後に、P(癌である | 検出した)の確率を求める。
したがって、検査装置の検査結果が癌と検出した場合であっても、実際に癌である確率は、P(癌である | 検出した) ≅ 0.00893しかない。
では、P(癌である | 検出した)の確率が十分に高くするには、検査装置の性能はどうあればよいかを考える。(例 : 0.9)
例えば、P(検出した | 癌である) = 0.9999、P(検出した | 癌ではない) = 0.0001とする時、以下の値となる。
したがって、P(癌である) = 0.001のような癌に罹る確率が低い時は、癌患者に対する検査装置の結果が癌と検出する確率は、
P(検出した | 癌である) = 0.9999と非常に高い確率でなくてはならない。