トランジスタ - トランジスタの特性

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概要

ここでは、以下に示すトランジスタの特性について記載する。

  • 出力特性(IC-VCE特性)と飽和領域、活性領域、遮断領域
  • 入力特性(IB-VBE特性)
  • IC-VBE特性
  • 電流伝達特性(IC-IB特性)
  • hFE-IC特性



出力特性(IC-VCE特性)

出力特性(IC-VCE特性)とは

トランジスタの出力特性(IC-VCE特性)とは、エミッタ接地トランジスタの静特性において、
あるベース電流IBを流している状態で、コレクタ-エミッタ間電圧VCEとコレクタ電流ICの関係を表した特性のことである。

コレクタ-エミッタ間電圧VCEがある一定値を超えるまでは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが増加するとコレクタ電流ICが増加するが、
コレクタ-エミッタ間電圧VCEがある一定値を超えると、コレクタ電流ICはコレクタ-エミッタ間電圧VCEによらず、ベース電流IBに依存する値となる。

ErectricParts Transistor Characteristic 1.jpg


トランジスタの飽和領域、活性領域、遮断領域について

トランジスタの出力特性(IC-VCE特性)には、3つの領域(飽和領域、活性領域、遮断領域)がある。

トランジスタをスイッチとして使用する場合は、飽和領域(スイッチがオンの状態)と遮断領域(スイッチがオフの状態)を利用する。
トランジスタをアンプとして使用する場合は、活性領域を利用する。

ErectricParts Transistor Characteristic 2.jpg


次に、3つの領域(飽和領域、活性領域、遮断領域)について順番に記載する。

飽和領域

飽和領域とは、ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しない領域であり、出力特性(IC-VCE特性)の青色の箇所となる。
出力特性(IC-VCE特性)の見方によって様々な説明方法があるため、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが小さくてもコレクタ電流ICが流れる領域と説明している専門書も存在する。

トランジスタをスイッチとして使用する場合、スイッチをオン状態にするためには、ベース電流を多く流してコレクタ-エミッタ間電圧VCEが最小電圧となる箇所を使用する。
(この最小電圧のことをコレクタ飽和電圧VCE(sat)と呼び、コレクタ飽和電圧VCE(sat)はデータシートに記載されている)
これは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを小さくすることで、オン状態における損失()が小さくなるからである。

活性領域

活性領域とは、ベース電流IBが一定ならコレクタ-エミッタ間電圧VCEによらずコレクタ電流ICが一定となる領域であり、出力特性(IC-VCE特性)の赤色の箇所となる。
つまり、活性領域では、コレクタ電流ICはコレクタ-エミッタ間電圧VCEではなく、ベース電流IBで決まる。

トランジスタをアンプとして使用する場合、この活性領域を利用する。
また、活性領域では、コレクタ-エミッタ間電圧VCEによらずコレクタ電流ICが一定となるため、一定の電流を流す電流源としても利用される。

出力特性(IC-VCE特性)の傾きがコレクタ抵抗RCとなる。
コレクタ抵抗RCは、下式で表される。


コレクタ-エミッタ間電圧VCEを大きくしてもコレクタ電流ICは大きく変化しないことから、活性領域ではコレクタ抵抗RCは非常に大きな値ということになる。

遮断領域

遮断領域とは、ベース電流IBが0[A]でもコレクタ電流ICが0[A]とならず漏れ電流がわずかに流れる領域であり、出力特性(IC-VCE特性)の緑色の箇所となる。
この漏れ電流のことを、コレクタ遮断電流ICEOと言う。(また、コレクタ遮断電流ICEOは、コレクターエミッタ間遮断電流とも呼ばれる)

コレクタ遮断電流ICEOの値が小さければ小さいほど特性の良いトランジスタである。
なお、コレクタ遮断電流ICEOはデータシートには最大値のみが記載されている。

※補足
遮断領域では、トランジスタをスイッチとして使用する場合、トランジスタのスイッチがオフの状態である。
遮断領域は、コレクタ遮断領域とも呼ばれる。

その他 : トランジスタの出力アドミタンス

トランジスタを使用する時、h定数と呼ばれるものを用いることがある。 h定数には、出力アドミタンスhOE、電流増幅率hFE、入力インピーダンスhIE、電圧帰還率hREがある。

ここで、出力特性(IC-VCE特性)と関係があるのは、出力アドミタンスhOEである。
出力アドミタンスhOEとは、出力特性(IC-VCE特性)の曲線の傾きのことであり、コレクタ-エミッタ間電圧VCEの変化に対するコレクタ電流ICの変化の逆数で、下式となる。


なお、単位はS(ジーメンス)である。


入力特性(IB-VBE特性)

入力特性(IB-VBE特性)とは

トランジスタの入力特性(IB-VBE特性)とは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを一定とした時における、
ベース電流IBとベース-エミッタ間電圧VBEの特性のことである。

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ベースとエミッタ間はPN接合となるため、ダイオードの順方向電圧特性(IF-VF特性)と同じになる。

シリコンを素材としたシリコントランジスタの場合、ベース-エミッタ間電圧VBEが0.6~0.8[V]以上になると、ベース電流IBが大きく変化する。
ゲルマニウムを素材としたゲルマニウムトランジスタの場合、ベース-エミッタ間電圧VBEが0.2~0.3[V]以上になると、ベース電流IBが大きく変化する。

入力特性(IB-VBE特性)における温度特性

トランジスタの入力特性(IB-VBE特性)は、温度によって変化する。
データシート上には、温度が-55[℃]、-40[℃]、-25[℃]、25[℃]、100[℃]など異なる温度の時のIB-VBE特性が記載されている。

入力特性(IB-VBE特性)において、温度が高くなると特性は左側にシフトする。
すなわち、温度が高くなると、同じベース電流IBを流すために必要なベース-エミッタ間電圧VBEが減少する。

下図は、東芝製2SC1815の入力特性(IB-VBE特性)である。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEが6[V]、温度が-25[℃]、25[℃]、100[℃]の時の特性が記載されており、温度が高くなると特性は左側にシフトしていることが分かる。

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IC-VBE特性

IC-VBE特性とは

IC-VBE特性とは、エミッタ接地トランジスタの静特性で、コレクタ電流ICとベース-エミッタ間電圧VBEの関係を表した特性である。
IC-VBE特性は、ベース電流IBとベース-エミッタ間電圧VBEの関係を表したVBE-IB特性と同じ形であり、
コレクタ電流ICは、ベース電流IBのhFE倍となる。

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※補足
ベース-エミッタ間電圧VBEとは、トランジスタのベース-エミッタ間に生じる電圧のことである。
ベース-エミッタ間電圧VBEはベース電流依存性を持っており、ベース電流IBが多いほどベース-エミッタ間電圧VBEが高くなる。

ベース-エミッタ間電圧VBEがある電圧を超えると、コレクタ電流ICが流れ始める。
この時、コレクタ電流ICは、ベース-エミッタ間電圧VBEの増加に対して、指数eのべき乗の関数で増加する。

ここで、ISはトランジスタの品種によって決まる逆方向飽和電流[A]、qは電子の電荷[C]、kはボルツマン定数、Tは絶対温度[K]、
VBEはベース-エミッタ間電圧、VT(=q/kT)は半導体の物性で求まり27[℃](300[K])において約26[mV]となる。

IC-VBE特性の温度特性

IC-VBE特性は温度によって変化する。
データシート上には、温度が-55[℃]、-40[℃]、-25[℃]、25[℃]、100[℃]、125[℃]等の異なる温度の時のIC-VBE特性が記載されている。

IC-VBE特性は、温度が高くなると、特性は左側にシフトする。
すなわち、温度が高くなると、同じコレクタ電流ICを流すために必要なベース-エミッタ間電圧VBEが減少する。
また、ベース-エミッタ間電圧VBEが一定の時は、温度が高いほどコレクタ電流ICが流れる。

一般的に、ベース-エミッタ間電圧VBEは1[℃]が上がると、約2[mV]が下がると言われている。(-2[mV]/[℃])
例えば、温度が30[℃]変化すると、ベース-エミッタ間電圧VBEが60[mV]変化する。
ベース-エミッタ間電圧VBEは約0.6[V]なので、温度が30[℃]変化すると、ベース-エミッタ間電圧VBEが約10[%]も変化する。
これは、精度を求められる回路では全く無視できない数字となる。


電流伝達特性(IC-IB特性)

電流伝達特性(IC-IB特性)とは

トランジスタの電流伝達特性(IC-IB特性)とは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを一定とした時、コレクタ電流ICとベース電流IBの関係を表した特性のことである。

下図のように、コレクタ電流ICがある一定値(IC1)を超えるまでベース電流IBが増えると、コレクタ電流ICは比例して増加するため、特性の形は「線形」になる。
また、その比例定数は 直流電流増幅率hFEとなるため、式で表すと

となる。

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直流電流増幅率hFEは、一般的に、数十~数百の値なので、ベース電流が10[μA]オーダーで変化すると、コレクタ電流ICはmAオーダーで変化する。
一方、コレクタ電流ICがある一定値を超えた時、ベース電流IBを増やしても、コレクタ電流ICが増加しなくなる。
これが、トランジスタの飽和である。

また、トランジスタのデータシートを見ると、直流電流増幅率hFEとコレクタ電流ICの関係を表したhFE-IC特性がある。
下図に、2SC1815のhFE-IC特性を示す。

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この特性より、コレクタ電流ICはある一定値までは、直流電流増幅率hFEがほぼ一定なので、より、
ベース電流IBとコレクタ電流ICは比例関係にある。
しかし、コレクタ電流ICがある一定値を超えると、直流電流増幅率hFEが減少するため、ベース電流IBが増加しても、より、
コレクタ電流ICが増加しなくなる。

※補足

  • トランジスタをスイッチとして使用する場合
    ベース電流IBを増やしても、コレクタ電流ICが増加しなくなる領域(飽和領域という)を用いる。


  • トランジスタをアンプとして使用する場合
    ベース電流IBとコレクタ電流ICは比例関係となる領域(活性領域という)を用いる。


  • その他
    直流電流増幅率はhFEではなくβ(ベータ)で表すこともある。
    一方、交流電流増幅率は、小信号電流増幅率hfe()で表す。
    直流電流増幅率hFEは同一型番のトランジスタでもバラツキが大きいため、設計の際には注意が必要となる。

    直流電流増幅率のhFEは、Hybrid Forward Emitterの略である。



hFE-IC特性

hFE-IC特性とは

トランジスタのhFE-IC特性とは、直流電流増幅率hFEとコレクタ電流ICの関係を表した特性のことである。

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直流電流増幅率hFEは、トランジスタのベース電流IBとコレクタ電流ICの比率であり、以下の式で表される。


直流電流増幅率hFEの値は様々であり、一般的な値は100~500程度で、小さいものだと10程度、大きいものでは1000程度のものもある。

例えば、直流電流増幅率hFEが100のトランジスタの場合、100[mA]のコレクタ電流ICを流すには1[mA]のベース電流IBが必要ということになる。
言い換えると、わずか1[mA]のベース電流IBの変化で100[mA]もコレクタ電流ICを制御できるのがトランジスタの特徴である。

また、トランジスタのhFE-IC特性は、温度とコレクタ-エミッタ間電圧VCEによって変化する。

次のセクションに、この温度特性について記載する。

hFE-IC特性の温度特性

hFE-IC特性は、トランジスタのデータシートに記載されている。
下図は、2SC1815のhFE-IC特性である。
温度やコレクタ-エミッタ間電圧VCEを振った時の特性が記載されている。
(温度を100[℃]、25[℃]、-25[℃]と振った時と、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを1[V]、5[V]と振った時のhFE-IC特性となっている)

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直流電流増幅率hFEは、温度によって大きく変化し、温度が高いほど直流電流増幅率hFEは大きくなる。

例として、コレクタ電流ICが10[mA]の箇所を見ると、
温度が25[℃]の時の直流電流増幅率hFEは150であるが、温度が-25[℃]の時の直流電流増幅率hFEは100となっている。

そのため、トランジスタが動作するギリギリの設計をした場合、高温の時は動作して、低温の時は動作しないことが起きるので注意すること。
低温の環境で動作させる場合は、直流電流増幅率hFEが低下しても問題が生じないような工夫が必要となる。

hFE-IC特性のコレクタ-エミッタ間電圧VCE特性

直流電流増幅率hFEは、コレクタ電流ICとコレクタ-エミッタ間電圧VCEの値によって変化する。

下図は、2SC1815のhFE-IC特性である。

温度が25[℃]の時の特性を見ると、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが5[V]の時(実線の時)は、
コレクタ電流ICが100[mA]になるまで直流電流増幅率hFEは低下していない。

一方、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが1[V]の時(点線の時)は、
コレクタ電流ICが30[mA]以上になると直流電流増幅率hFEが低下していることがわかる。

すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧VCEに余裕が無いと、直流電流増幅率hFEを一定に維持できなくなるのである。

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その他 : 直流電流増幅率hFEのばらつき

トランジスタを製造すると、様々な値の直流電流増幅率hFEのものができてしまう。
そのため、メーカーでは、直流電流増幅率hFEを測定・分類して、分類コードを印字して出荷している。

下図は、2SC1815の電気的特性である。
直流電流増幅率hFEが、O:70~140、Y:120~240、GR:200~400、BL:350~700と分類されていることが分かる。

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ちなみに、OはOrange、YはYellow、GRはGreen、BLはBlueの頭文字を示している。
抵抗器のカラーコードにおいて、3=Orange、4=Yellow、5=Green、6=Blueであり、その順番と同じ順序となっている。