概要
誤り検出能力や誤り訂正能力を高めるための基礎的な理論には、体と拡大体の考え方が用いられる。
ここでは、体と拡大体の基本的な考え方を記載する。
体
有理数の全体を とする時、 は四則で閉じている。
すなわち、 とすると、以下が成り立つ。
同様に、実数の全体を とする時、 も四則で閉じている。
集合 に限らず、四則で閉じている集合を体という。
特に、集合 を有理数体、集合 を実数体という。
下図に、群環体の定義を示す。
ガロア体
体には、要素数が有限のものもあり、これをガロア体(有限体)といい、要素数がq個であるガロア体をGF(q)で表す。
特に、GF(2)は0と1の要素から成り、加法と乗法の演算は下表のようになる。
GF(2)のことを、Z/2Z
で表すこともある。
GF(2)の加法演算では、1 + 1 = 0となることに注意すること。
また、加法についての単位元は0、乗法についての単位元は1である。
GF(2)の加法演算
+
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0
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1
|
0
|
0 |
1
|
1
|
1 |
0
|
GF(2)の乗法演算
×
|
0
|
1
|
0
|
0 |
0
|
1
|
0 |
1
|
多項式
体F上の多項式
体Fの要素を係数とする多項式を、体F上の多項式と呼ぶ。
そして、体F上の多項式間の演算は、実数体上の多項式と同様に行う。
原始多項式
の全ての係数の最大公約元が単元である時、 は原始多項式(primitive polynomial)という。
例 :
は全ての係数が2で除算できるため原始多項式ではない。
は原始多項式である。
原始多項式の特徴
- 全ての最小多項式は既約であるから,原始多項式は既約である。
- 原始多項式の定数項の係数は、非零でなければならない。
そうでないと,多項式xで因数分解できてしまうからである。
- においては、 は原始多項式であるが、それ以外の全ての原始多項式は奇数個の項を持つ。
なぜなら、偶数個の項を持つ多項式は、 では必ず多項式 で因数分解できてしまうからである。
(すなわち、 を根として持つ)
既約多項式
体F上の多項式で、それよりも次数の低い体F上多項式に因数分解できない多項式を既約多項式という。
特に、次数がmである時、m次既約多項式という。
例.1
多項式 は、全ての係数がGF(2)の要素0、1であるから、GF(2)上の多項式である。
例.2
多項式 と は、GF(2)上の3次の既約多項式である。
例.3
5次多項式 は、 と因数分解できるため、既約多項式ではない。
GF(2)の既約多項式の求め方
m次の既約多項式を求めるには、まず、m次の次数が存在する必要がある。(例. 3次既約多項式ではx3、5次既約多項式ではx5等)
のため、係数は0、 1のいずれかである。
もし、係数が2以上の値の時は、係数に を用いて計算する。
GF(2)上の1次既約多項式を求めるには、 において、因数分解できないため、1次既約多項式は、 の2つである。
2次以降の既約多項式では、必ず定数項を含むことに注意する。
なぜなら、定数項が存在しない場合、 となり、また、f(x)は1次既約多項式xで可約だから(因数分解できるから)である。
2次既約多項式を求めるには、 とする時、 (床関数)だから、
f(x)が1次既約多項式で因数分解できなければよく、かつ、剰余定理から ならばよい。
(床関数とは、 を満たす整数nのことを と記述する。 は、xを超えない最大の整数とも言える。)
したがって、2次既約多項式は、 となる。
3次既約多項式を求めるには、 とする時、 だから、
f(x)が1次既約多項式で因数分解できなければよく、かつ、剰余定理から ならばよい。
したがって、3次既約多項式は、 の2つとなる。
4次既約多項式を求めるには、 とする時、 だから、
f(x)が2次以下の既約多項式で因数分解できなければよく、かつ、剰余定理から ならばよい。
f(x)を2次の既約多項式 で割った剰余は、
が同時に0になってはならないため、
したがって、4次既約多項式は、 の3つとなる。
5次既約多項式を、以下に示す。
- x
- 1 + x
- 1 + x + x2
- 1 + x + x3
- 1 + x + x3
- 1 + x3 + x4
- 1 + x + x2 + x3 + x4
- 1 + x + x4
- 1 + x3 + x5
- 1 + x2 + x5
- 1 + x + x2 + x3 + x5
- 1 + x + x3 + x4 + x5
- 1 + x2 + x3 + x4 + x5
- 1 + x + x2 + x4 + x5
拡大体
体Kが体F上を含む時、体Kを体Fの拡大体という。
実数体 は、有理数体 の拡大体である。
体F上の既約多項式f(x)がある時、方程式f(x) = 0の根ωを用いて、体Fの拡大体Kを作ることができる。
GF(2)の2次の拡大体
GF(2)上の2次の既約多項式は、 だけである。
f(x) = 0の根をωとすると、 が成り立つ。
このωを用いて、集合 を作ると、この集合は体となる。
a、bは0か1であるから、この集合の要素は となる。
この集合の任意の2要素の和もこの集合に属する。
また、この集合の任意の2要素の積もこの集合に属する。
例.1
より、 である。
これは、GF(2)では、加えることと減ずることは同じことを意味する。
例.2
例.3
2次の既約多項式 において、f(x) = 0の根をωとすると、 より、
また、 より、
したがって、
例.4
下表に、GF(2)の2次の拡大体の演算を示す。
和
|
0
|
1
|
|
|
0
|
0 |
1 |
|
|
1
|
1 |
0 |
|
|
|
|
|
0 |
1
|
|
|
|
1 |
0
|
積
|
0
|
1
|
|
|
0
|
0 |
0 |
0 |
0
|
1
|
0 |
1 |
|
|
|
0 |
|
|
1
|
|
0 |
|
1 |
|
また、これらは商に関しても閉じている。
上表より、 であるから、 である。
これは、 の逆元 は、 との積が1となる元であることを意味する。
以上のように、集合 は、四則において閉じており、体である。
この体のことをGF(22)と表し、GF(2)の2次の拡大体という。
GF(22)の要素の累乗表示において、 より、
となる。
すなわち、集合GF(22)は、以下の2つの表示をすることができる。
- 線形表示
- まとめて
- 累乗表示
- まとめて
累乗表示の性質から、ωをGF(22)の原始根といい、ωを根にもつ をGF(22)の原始多項式という。
さらに、 であるから、原始多項式f(x)はGF(22)で と因数分解される。
GF(2)の3次の拡大体
GF(2)の2次の拡大体の構成法にならって、GF(2)の3次の拡大体を構成する。
まず、GF(2)上の3次の既約多項式を求める。
GF(2)上の3次の多項式 がGF(2)上で既約であるとは、
かつ であるから、 となる場合である。
したがって、GF(2)上の既約多項式は、以下の2つとなる。
GF(2)の3次の拡大体GF(23)を構成するには、まず、GF(2)の3次の既約多項式 を取り上げる。
f(x) = 0の根をωとする時、 となり、したがって、
また、 であるから、ωはGF(2)に含まれない。
このωを用いて集合 を作る。
この集合の要素を全て書くと、 となる。
この8個の要素のどの2つを加算しても、この集合の要素となる。
ちなみに、3次の既約多項式 を用いる場合、 となる。
すなわち、この集合の和は閉じている。差においても閉じていることは明らかである。
下表に、この集合(GF(2)の3次の拡大体GF(23))の積の演算を示す。
積
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1
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|
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1
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1 |
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1 |
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|
1 |
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|
1
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|
1 |
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1 |
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|
|
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|
1 |
|
|
|
例.1
例.2
の逆元は、積が1となる元 である。
より、 である。
例えば、 となる。
上式のように、ωを で割った結果もこの集合の要素となる。
同様に、商に関しても閉じていることが分かる。
以上のように、集合 は、四則に関して閉じているため、体である。
この体をGF(23)と表し、GF(2)の3次拡大体という。
GF(23)の累乗表示において、 となる。
このように、GF(23)の要素は、ωの累乗で表されることがわかる。
したがって、GF(23)は、以下の2つの表示をすることができる。
-
-
ωはGF(23)の原始根、 はGF(23)の原始多項式である。
GF(23)の原始多項式 の因数分解は、 となる。
また、GF(2)上のもう1つの3次の既約多項式 は、 と因数分解される。
したがって、GF(2)では3次の既約多項式として、 の代わりに を用いても、同じ3次の拡大体GF(23)が得られる。
例.3
上表(GF(2)の3次の拡大体GF(23)の積の演算表)を用いて、GF(23)内の次の要素の逆元を求める。
の逆元
上表から、 となり、逆元は である。
の逆元
上表から、 となり、逆元は である。
の逆元
である。
上表から、 となり、逆元は である。
例.4
ωを の根とする時、次の値を の形で表す。
1.
は、 より、
(1)式より、 となる。
2.
は、 より、
(2)式より、