「トランジスタ - トランジスタの特性」の版間の差分
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トランジスタの出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)とは、エミッタ接地トランジスタの静特性において、<br> | トランジスタの出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)とは、エミッタ接地トランジスタの静特性において、<br> | ||
あるベース電流I<sub>B</sub>を流している状態で、コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>とコレクタ電流I<sub>C</sub>の関係を表した特性のことである。<br> | あるベース電流I<sub>B</sub>を流している状態で、コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>とコレクタ電流I<sub>C</sub>の関係を表した特性のことである。<br> | ||
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コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>がある一定値を超えると、コレクタ電流I<sub>C</sub>はコレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>によらず、ベース電流I<sub>B</sub>に依存する値となる。<br> | コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>がある一定値を超えると、コレクタ電流I<sub>C</sub>はコレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>によらず、ベース電流I<sub>B</sub>に依存する値となる。<br> | ||
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トランジスタの出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)には、3つの領域(飽和領域、活性領域、遮断領域)がある。<br> | トランジスタの出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)には、3つの領域(飽和領域、活性領域、遮断領域)がある。<br> | ||
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飽和領域とは、ベース電流I<sub>B</sub>を大きくしてもコレクタ電流I<sub>C</sub>が増加しない領域であり、出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の青色の箇所となる。<br> | 飽和領域とは、ベース電流I<sub>B</sub>を大きくしてもコレクタ電流I<sub>C</sub>が増加しない領域であり、出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の青色の箇所となる。<br> | ||
出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の見方によって様々な説明方法があるため、コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>が小さくてもコレクタ電流I<sub>C</sub>が流れる領域と説明している専門書も存在する。<br> | 出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の見方によって様々な説明方法があるため、コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>が小さくてもコレクタ電流I<sub>C</sub>が流れる領域と説明している専門書も存在する。<br> | ||
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これは、コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>を小さくすることで、オン状態における損失(<math>P_{LOSS} = V_{CE} \times I_C</math>)が小さくなるからである。<br> | これは、コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>を小さくすることで、オン状態における損失(<math>P_{LOSS} = V_{CE} \times I_C</math>)が小さくなるからである。<br> | ||
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活性領域とは、ベース電流I<sub>B</sub>が一定ならコレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>によらずコレクタ電流I<sub>C</sub>が一定となる領域であり、出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の赤色の箇所となる。<br> | 活性領域とは、ベース電流I<sub>B</sub>が一定ならコレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>によらずコレクタ電流I<sub>C</sub>が一定となる領域であり、出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の赤色の箇所となる。<br> | ||
つまり、活性領域では、コレクタ電流I<sub>C</sub>はコレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>ではなく、ベース電流I<sub>B</sub>で決まる。<br> | つまり、活性領域では、コレクタ電流I<sub>C</sub>はコレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>ではなく、ベース電流I<sub>B</sub>で決まる。<br> | ||
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コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>を大きくしてもコレクタ電流I<sub>C</sub>は大きく変化しないことから、活性領域ではコレクタ抵抗R<sub>C</sub>は非常に大きな値ということになる。<br> | コレクタ-エミッタ間電圧V<sub>CE</sub>を大きくしてもコレクタ電流I<sub>C</sub>は大きく変化しないことから、活性領域ではコレクタ抵抗R<sub>C</sub>は非常に大きな値ということになる。<br> | ||
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遮断領域とは、ベース電流I<sub>B</sub>が0[A]でもコレクタ電流I<sub>C</sub>が0[A]とならず漏れ電流がわずかに流れる領域であり、出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の緑色の箇所となる。<br> | 遮断領域とは、ベース電流I<sub>B</sub>が0[A]でもコレクタ電流I<sub>C</sub>が0[A]とならず漏れ電流がわずかに流れる領域であり、出力特性(I<sub>C</sub>-V<sub>CE</sub>特性)の緑色の箇所となる。<br> | ||
この漏れ電流のことを、コレクタ遮断電流I<sub>CEO</sub>と言う。(また、コレクタ遮断電流I<sub>CEO</sub>は、コレクターエミッタ間遮断電流とも呼ばれる)<br> | この漏れ電流のことを、コレクタ遮断電流I<sub>CEO</sub>と言う。(また、コレクタ遮断電流I<sub>CEO</sub>は、コレクターエミッタ間遮断電流とも呼ばれる)<br> | ||
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<u>遮断領域は、コレクタ遮断領域とも呼ばれる。</u><br> | <u>遮断領域は、コレクタ遮断領域とも呼ばれる。</u><br> | ||
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==== その他 : トランジスタの出力アドミタンス ==== | ===== その他 : トランジスタの出力アドミタンス ===== | ||
トランジスタを使用する時、h定数と呼ばれるものを用いることがある。 | トランジスタを使用する時、h定数と呼ばれるものを用いることがある。 | ||
h定数には、出力アドミタンスh<sub>OE</sub>、電流増幅率h<sub>FE</sub>、入力インピーダンスh<sub>IE</sub>、電圧帰還率h<sub>RE</sub>がある。<br> | h定数には、出力アドミタンスh<sub>OE</sub>、電流増幅率h<sub>FE</sub>、入力インピーダンスh<sub>IE</sub>、電圧帰還率h<sub>RE</sub>がある。<br> | ||
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ゲルマニウムを素材としたゲルマニウムトランジスタの場合、ベース-エミッタ間電圧V<sub>BE</sub>が0.2~0.3[V]以上になると、ベース電流I<sub>B</sub>が大きく変化する。<br> | ゲルマニウムを素材としたゲルマニウムトランジスタの場合、ベース-エミッタ間電圧V<sub>BE</sub>が0.2~0.3[V]以上になると、ベース電流I<sub>B</sub>が大きく変化する。<br> | ||
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==== 入力特性(I<sub>B</sub>-V<sub>BE</sub>特性)における温度特性 ==== | ==== 入力特性(I<sub>B</sub>-V<sub>BE</sub>特性)における温度特性 ==== | ||
<u>トランジスタの入力特性(I<sub>B</sub>-V<sub>BE</sub>特性)は、温度によって変化する。</u><br> | <u>トランジスタの入力特性(I<sub>B</sub>-V<sub>BE</sub>特性)は、温度によって変化する。</u><br> |
2020年9月25日 (金) 13:00時点における版
概要
ここでは、以下に示すトランジスタの特性について記載する。
- 出力特性(IC-VCE特性)と飽和領域、活性領域、遮断領域
- 入力特性(IB-VBE特性)
- IC-VBE特性
- 電流伝達特性(IC-IB特性)
- hFE-IC特性
出力特性(IC-VCE特性)
出力特性(IC-VCE特性)とは
トランジスタの出力特性(IC-VCE特性)とは、エミッタ接地トランジスタの静特性において、
あるベース電流IBを流している状態で、コレクタ-エミッタ間電圧VCEとコレクタ電流ICの関係を表した特性のことである。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEがある一定値を超えるまでは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが増加するとコレクタ電流ICが増加するが、
コレクタ-エミッタ間電圧VCEがある一定値を超えると、コレクタ電流ICはコレクタ-エミッタ間電圧VCEによらず、ベース電流IBに依存する値となる。
トランジスタの飽和領域、活性領域、遮断領域について
トランジスタの出力特性(IC-VCE特性)には、3つの領域(飽和領域、活性領域、遮断領域)がある。
トランジスタをスイッチとして使用する場合は、飽和領域(スイッチがオンの状態)と遮断領域(スイッチがオフの状態)を利用する。
トランジスタをアンプとして使用する場合は、活性領域を利用する。
次に、3つの領域(飽和領域、活性領域、遮断領域)について順番に記載する。
飽和領域
飽和領域とは、ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しない領域であり、出力特性(IC-VCE特性)の青色の箇所となる。
出力特性(IC-VCE特性)の見方によって様々な説明方法があるため、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが小さくてもコレクタ電流ICが流れる領域と説明している専門書も存在する。
トランジスタをスイッチとして使用する場合、スイッチをオン状態にするためには、ベース電流を多く流してコレクタ-エミッタ間電圧VCEが最小電圧となる箇所を使用する。
(この最小電圧のことをコレクタ飽和電圧VCE(sat)と呼び、コレクタ飽和電圧VCE(sat)はデータシートに記載されている)
これは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを小さくすることで、オン状態における損失()が小さくなるからである。
活性領域
活性領域とは、ベース電流IBが一定ならコレクタ-エミッタ間電圧VCEによらずコレクタ電流ICが一定となる領域であり、出力特性(IC-VCE特性)の赤色の箇所となる。
つまり、活性領域では、コレクタ電流ICはコレクタ-エミッタ間電圧VCEではなく、ベース電流IBで決まる。
トランジスタをアンプとして使用する場合、この活性領域を利用する。
また、活性領域では、コレクタ-エミッタ間電圧VCEによらずコレクタ電流ICが一定となるため、一定の電流を流す電流源としても利用される。
出力特性(IC-VCE特性)の傾きがコレクタ抵抗RCとなる。
コレクタ抵抗RCは、下式で表される。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEを大きくしてもコレクタ電流ICは大きく変化しないことから、活性領域ではコレクタ抵抗RCは非常に大きな値ということになる。
遮断領域
遮断領域とは、ベース電流IBが0[A]でもコレクタ電流ICが0[A]とならず漏れ電流がわずかに流れる領域であり、出力特性(IC-VCE特性)の緑色の箇所となる。
この漏れ電流のことを、コレクタ遮断電流ICEOと言う。(また、コレクタ遮断電流ICEOは、コレクターエミッタ間遮断電流とも呼ばれる)
コレクタ遮断電流ICEOの値が小さければ小さいほど特性の良いトランジスタである。
なお、コレクタ遮断電流ICEOはデータシートには最大値のみが記載されている。
※補足
遮断領域では、トランジスタをスイッチとして使用する場合、トランジスタのスイッチがオフの状態である。
遮断領域は、コレクタ遮断領域とも呼ばれる。
その他 : トランジスタの出力アドミタンス
トランジスタを使用する時、h定数と呼ばれるものを用いることがある。
h定数には、出力アドミタンスhOE、電流増幅率hFE、入力インピーダンスhIE、電圧帰還率hREがある。
ここで、出力特性(IC-VCE特性)と関係があるのは、出力アドミタンスhOEである。
出力アドミタンスhOEとは、出力特性(IC-VCE特性)の曲線の傾きのことであり、コレクタ-エミッタ間電圧VCEの変化に対するコレクタ電流ICの変化の逆数で、下式となる。
なお、単位はS(ジーメンス)である。
入力特性(IB-VBE特性)
入力特性(IB-VBE特性)とは
トランジスタの入力特性(IB-VBE特性)とは、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを一定とした時における、
ベース電流IBとベース-エミッタ間電圧VBEの特性のことである。
ベースとエミッタ間はPN接合となるため、ダイオードの順方向電圧特性(IF-VF特性)と同じになる。
シリコンを素材としたシリコントランジスタの場合、ベース-エミッタ間電圧VBEが0.6~0.8[V]以上になると、ベース電流IBが大きく変化する。
ゲルマニウムを素材としたゲルマニウムトランジスタの場合、ベース-エミッタ間電圧VBEが0.2~0.3[V]以上になると、ベース電流IBが大きく変化する。
入力特性(IB-VBE特性)における温度特性
トランジスタの入力特性(IB-VBE特性)は、温度によって変化する。
データシート上には、温度が-55[℃]、-40[℃]、-25[℃]、25[℃]、100[℃]など異なる温度の時のIB-VBE特性が記載されている。
入力特性(IB-VBE特性)において、温度が高くなると特性は左側にシフトする。
すなわち、温度が高くなると、同じベース電流IBを流すために必要なベース-エミッタ間電圧VBEが減少する。
下図は、東芝製2SC1815の入力特性(IB-VBE特性)である。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEが6[V]、温度が-25[℃]、25[℃]、100[℃]の時の特性が記載されており、温度が高くなると特性は左側にシフトしていることが分かる。
IC-VBE特性
IC-VBE特性とは
IC-VBE特性とは、エミッタ接地トランジスタの静特性で、コレクタ電流ICとベース-エミッタ間電圧VBEの関係を表した特性である。
IC-VBE特性は、ベース電流IBとベース-エミッタ間電圧VBEの関係を表したVBE-IB特性と同じ形であり、
コレクタ電流ICは、ベース電流IBのhFE倍となる。
※補足
ベース-エミッタ間電圧VBEとは、トランジスタのベース-エミッタ間に生じる電圧のことである。
ベース-エミッタ間電圧VBEはベース電流依存性を持っており、ベース電流IBが多いほどベース-エミッタ間電圧VBEが高くなる。
ベース-エミッタ間電圧VBEがある電圧を超えると、コレクタ電流ICが流れ始める。
この時、コレクタ電流ICは、ベース-エミッタ間電圧VBEの増加に対して、指数eのべき乗の関数で増加する。
ここで、ISはトランジスタの品種によって決まる逆方向飽和電流[A]、qは電子の電荷[C]、kはボルツマン定数、Tは絶対温度[K]、
VBEはベース-エミッタ間電圧、VT(=q/kT)は半導体の物性で求まり27[℃](300[K])において約26[mV]となる。
IC-VBE特性の温度特性
IC-VBE特性は温度によって変化する。
データシート上には、温度が-55[℃]、-40[℃]、-25[℃]、25[℃]、100[℃]、125[℃]等の異なる温度の時のIC-VBE特性が記載されている。
IC-VBE特性は、温度が高くなると、特性は左側にシフトする。
すなわち、温度が高くなると、同じコレクタ電流ICを流すために必要なベース-エミッタ間電圧VBEが減少する。
また、ベース-エミッタ間電圧VBEが一定の時は、温度が高いほどコレクタ電流ICが流れる。
一般的に、ベース-エミッタ間電圧VBEは1[℃]が上がると、約2[mV]が下がると言われている。(-2[mV]/[℃])
例えば、温度が30[℃]変化すると、ベース-エミッタ間電圧VBEが60[mV]変化する。
ベース-エミッタ間電圧VBEは約0.6[V]なので、温度が30[℃]変化すると、ベース-エミッタ間電圧VBEが約10[%]も変化する。
これは、精度を求められる回路では全く無視できない数字となる。