トランジスタ - エミッタ接地回路・コレクタ接地回路・ベース接地回路
概要
ここでは、エミッタ接地回路、コレクタ接地回路、ベース接地回路の違いについて記載する。
エミッタ接地回路、コレクタ接地回路、ベース接地回路の違い
エミッタ接地回路、コレクタ接地回路、ベース接地回路の違いは、トランジスタを使用した基本的な増幅回路において、
どの端子を接地するかによって回路構成を分類することができる。
下図に、エミッタ接地回路、コレクタ接地回路、ベース接地回路を示す。
各増幅回路の見分け方は以下のようになっている。
- エミッタ接地回路
- エミッタを接地している回路であり、ベースが入力でコレクタが出力となっている。
- コレクタ接地回路
- コレクタを接地している回路であり、ベースが入力でエミッタが出力となっている。
- コレクタ接地回路において、電圧源が交流的に変化しない電圧であれば、交流的には接地と考えることができる。
- そのため、交流的にはコレクタが接地しているということになる。
- ベース接地回路
- ベースを接地している回路であり、エミッタが入力でコレクタが出力となっている。
また、各増幅回路の特徴を以下に示す。
回路 | エミッタ接地回路 | コレクタ接地回路 | ベース接地回路 |
---|---|---|---|
入力インピーダンス | 低い | 高い | 低い |
出力インピーダンス | 高い(負荷抵抗と同じ値) | 低い | 高い(負荷抵抗と同じ値) |
電圧利得 | 大きい | ほぼ1 | 大きい |
電流利得 | 大きい | 大きい | ほぼ1 |
電力利得 | 大きい | エミッタ接地回路より小さい | エミッタ接地回路より小さい |
入出力の位相 | 逆相 | 同相 | 同相 |
周波数特性 | 良くない | エミッタ接地回路よりも良い | エミッタ接地回路よりも良い |
エミッタ接地回路
エミッタ接地回路とは
エミッタ接地回路とは、トランジスタを使用した基本的な増幅回路の1つである。
入力と出力の共通端子がエミッタ端子であるため、エミッタ接地回路と呼ばれる。また、エミッタ接地回路は、エミッタ共通回路(Common Emitter)とも呼ばれている。
電圧と電流の両方を増幅可能で電力利得が大きいため、基本的な増幅回路(エミッタ接地回路、コレクタ接地回路、ベース接地回路)の中で最も主要な回路である。
ベース端子に入力電圧VINを印加することで、コレクタ端子から出力電圧VOUTを取り出す回路となっている。
※補足
エミッタ接地回路は、FETにおけるソース接地回路のトランジスタ版である。
エミッタ接地回路の動作(直流成分のみ)
- 入力電圧VINがトランジスタのベース-エミッタ間のVBE(約0.7[V])を超えると、トランジスタが動作する。
- トランジスタが動作することにより、電源電圧VCCからコレクタ抵抗RCにコレクタ電流ICが流れる。
- 出力電圧VOUTは、電源電圧VCCからコレクタ抵抗RCの電圧降下()を引いた値()となる。
なお、コレクタ抵抗RCの両端電圧を出力とする場合は、出力電圧VOUTはとなる。
エミッタ接地回路の動作(直流成分+交流成分)
下図に、トランジスタと抵抗で構成されるエミッタ接地回路、トランジスタのIB-VBE特性、IC-VCE特性を示す。
ベース-エミッタ間にVBE以上の電圧を印加すると、ベース電流が流れる。
そこで、ベース-エミッタ間に直流電圧VBE0を印加して、ベース電流をある程度流しておく必要がある。この電圧をバイアス電圧という。
トランジスタのIB-VBE特性より、直流電圧VBE0に交流電圧vBEを加えるとベース電流は動作点IB0を中心にiB変化する。
トランジスタのとIC-VCE特性より、べース電流がiB変化することで、コレクタ電流は動作点IC0を中心にiC変化する。
上図のオレンジ色の負荷線より、コレクタ電流がiC変化することで、コレクタ-エミッタ間電圧は動作点VCE0を中心にvCE変化する。
これが、直流成分+交流成分を考慮した時におけるエミッタ接地回路の動作となる。
「ベース-エミッタ間の電圧が大きくなる→ベース電流が増える→コレクタ電流が増える→電圧降下が増える→コレクタ-エミッタ間の電圧が小さくなる」という動作になる。
すなわち、エミッタ接地回路は入力と出力の変化が逆になる。これを逆相と呼ぶ。
エミッタ接地回路の特徴
- 入力インピーダンスが低い
- トランジスタのIB-VBE特性より、トランジスタの入力電圧(ベース-エミッタ間の電圧VBE)を大きくすると、入力電流(ベース電流IB)が大きくなる。
- 入力インピーダンスZINは、となるため、
- 入力インピーダンスZINは非常に小さくなる。
- 出力インピーダンスが高い(コレクタ負荷抵抗RCと同じ)
- エミッタ接地回路の出力インピーダンスZOUTは、コレクタ抵抗RCと同じになる。
- 出力インピーダンスZOUTがコレクタ抵抗RCと同じになる理由については、後半のセクションで記載する。
- 電流利得が高い
- コレクタ電流iCはベース電流iBに対して、電流増幅率hfeを掛けた値となる。
- 電流増幅率hfeの大きなトランジスタでは1000程度であり、構造上、電流増幅率hfeを大きくすることができないパワートランジスタでは数十程度となっている。
- エミッタ接地回路では、入力電流iINはベース電流iBであり、出力電流iOUTはコレクタ電流iCとなる。
- そのため、電流利得AIは、となる。
- 電圧利得が高い
- エミッタ接地回路において、出力電圧の振幅はコレクタ負荷抵抗RCの電圧降下と等しくなる。
- そのため、コレクタ抵抗RCを大きくすればするほど、出力電圧が大きくなる。
- ただし、電源電圧VCCより大きな振幅は取れない。
- 入力電圧VINと出力電圧VOUTは逆相
- トランジスタの入力電圧(ベース-エミッタ間電圧VBE)が増加すると、ベース電流IBが増加して、コレクタ電流ICが増加するため、出力電圧(コレクタ-エミッタ間電圧VCE)が減少する。
- そのため、入力電圧と出力電圧の位相は180[度]反転する。
- 電力利得が高い
- 電力利得APは、電圧利得AV×電流利得AIなので、エミッタ接地回路では大きな電力増幅ができる。
- 入力インピーダンスは小さいが、この電力利得が大きいため、他の接地方式(コレクタ接地回路とベース接地回路)よりも多く使用される。
- 高周波領域で増幅度が下がる
- エミッタ接地回路は、ミラー効果により他の接地方式(コレクタ接地回路とベース接地回路)よりも周波数特性が悪いため、高周波領域で増幅度が下がる。
- ミラー効果については、後半のセクションで記載する。
エミッタ接地回路のバイアス電圧の設計方法
下図に、トランジスタと抵抗で構成されるエミッタ接地回路とバイポーラの静特性であるIB-VBE特性とIC-VCE特性を示す。
エミッタ接地回路の設計は以下の順序で行う。
- 負荷線を引く。
- コレクタ-エミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める。
- ベース電流iBの動作点IB0を求める。
- ベース-エミッタ間電圧VBEの動作点VBE0を求める。
1. 負荷線を引く
トランジスタのベース端子に印加するバイアス電圧VBE0を求めるために、トランジスタのIC-VCE特性に負荷線を引く必要がある。
まず、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが0[V]の時、コレクタ電流ICが何[A]になるかを求める。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEが0[V]の時、コレクタ抵抗RCには電源電圧VCCが印加されるため、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが0[V]の時におけるコレクタ電流ICは、次式となる。
… (1)
次に、コレクタ電流ICが0[A]の時、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが何[V]になるのかを求める。
コレクタ電流ICが0[A]の時、コレクタ-エミッタ間電圧VCEは電源電圧VCCと等しくなるため、次式となる。
…(2)
この(1)と(2)の2点を結んだ直線が負荷線となる。
A点()とB点()より負荷線の傾きは、となる。
切片はなので、負荷線の式は以下の式となる。
2. コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める
コレクタ-エミッタ間電圧VCEの振幅が大きく取れるよう動作点を設定する。
エミッタ接地回路では、コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点は電源電圧VCCと0Vの真ん中付近VCE0に設定する。
3. ベース電流iBの動作点IB0を求める
トランジスタのIC-VCE特性と負荷線において、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが動作点VCE0の時におけるベース電流IBが動作点IB0となる。
この動作点IBOは、バイアス電流と呼ばれている。
4. ベース-エミッタ間電圧VBEの動作点VBE0を求める
トランジスタのIB-VBE特性において、ベース電流IBが動作点IB0の時におけるベース-エミッタ間電圧VBEが動作点VBE0なる。
ここで、"2.コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める"において、コレクタ-エミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を大きくし過ぎる、または、小さくし過ぎると、
コレクタ-エミッタ間電圧VCEの波形が歪むため、動作点の設定には注意が必要となる。
例えば、動作点を大きくし過ぎると(右に寄せ過ぎると)、出力電圧(コレクタ-エミッタ間電圧VCE)が電源電圧VCCを超えてしまう。
その結果、出力電圧(コレクタ-エミッタ間電圧VCE)は電源電圧VCCを超えることができないので、波形の上側が切れてしまい、波形に歪が生じる。(下図を参照)
※補足
負荷線は、負荷直線や負荷抵抗線とも呼ばれる。