「線形代数の基礎 - 対角化」の版間の差分

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(ページの作成:「== 概要 == 行列の対角化は、複雑な行列を扱いやすい形に変換する手法である。<br> 与えられた正方行列を、対角成分以外が全て0である対角行列と、その変換に必要な行列の積として表現することである。<br> <br> 対角化は、行列を固有値と固有ベクトルを用いて分解することにある。<br> 行列Aが対角化可能であれば、ある可逆行列Pと対角行列Dが存在…」)
 
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対角化は、行列を固有値と固有ベクトルを用いて分解することにある。<br>
対角化は、行列を固有値と固有ベクトルを用いて分解することにある。<br>
行列Aが対角化可能であれば、ある可逆行列Pと対角行列Dが存在し、<math>A = PDP^{-1}</math> という形で表すことができる。<br>
行列Aが対角化可能であれば、ある可逆行列Pと対角行列Dが存在し、<math>A = PDP^{-1} \, \, D = P^{-1}AP</math> という形で表すことができる。<br>
この時、対角行列Dの対角成分には行列Aの固有値が並び、Pの列には対応する固有ベクトルが並ぶ。<br>
この時、対角行列Dの対角成分には行列Aの固有値が並び、Pの列には対応する固有ベクトルが並ぶ。<br>
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*: 遷移行列を対角化することにより、システムの定常状態や収束速度を求めることができ、長期的な市場動向を予測することが可能になる。
*: 遷移行列を対角化することにより、システムの定常状態や収束速度を求めることができ、長期的な市場動向を予測することが可能になる。
*: また、金融工学での資産価格モデルやリスク分析にも応用されている。
*: また、金融工学での資産価格モデルやリスク分析にも応用されている。
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== 行列の対角化 ==
対角行列Eは累乗計算が簡単である等の性質があり、対角行列に変換することができればメリットが大きい。<br>
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与えられた正方行列Aに対して、<math>P^{-1}AP = \begin{pmatrix} \lambda_1 & 0 & 0 \\ 0 & \lambda_2 & 0 \\ 0 & 0 & \lambda_3 \end{pmatrix}</math> となるような行列Pを作り、<br>
<math>P^{-1}AP</math> が対角行列になるようにすることを対角化という。<br>
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== 行列の対角化の性質 ==
==== 性質 1 ====
対角行列の積を求めるには対角成分を乗算するだけでよい。<br>
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<math>
\begin{pmatrix}
\lambda_1 & 0 & 0 \\
0 & \lambda_2 & 0 \\
0 & 0 & \lambda_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\mu_1 & 0 & 0 \\
0 & \mu_2 & 0 \\
0 & 0 & \mu_3
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\lambda_1 \mu_1 & 0 & 0 \\
0 & \lambda_2 \mu_2 & 0 \\
0 & 0 & \lambda_3 \mu_3
\end{pmatrix}
</math><br>
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==== 性質 2 ====
対角行列のn乗を求める場合、各対角成分をn乗する。<br>
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<math>
\begin{pmatrix}
\lambda_1 & 0 & 0 \\
0 & \lambda_2 & 0 \\
0 & 0 & \lambda_3
\end{pmatrix}^{n}
=
\begin{pmatrix}
\lambda_1^{n} & 0 & 0 \\
0 & \lambda_2^{n} & 0 \\
0 & 0 & \lambda_3^{n}
\end{pmatrix}
</math><br>
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==== 性質 3 ====
<math>P^{-1}AP = \begin{pmatrix} \lambda_1 & 0 & 0 \\ 0 & \lambda_2 & 0 \\ 0 & 0 & \lambda_3 \end{pmatrix}</math> の時、
左辺のn乗については、<math>(P^{-1}AP)^{n} = P^{-1}A^{n}P</math> が成り立つ。<br>
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右辺のn乗については、<math>\begin{pmatrix} \lambda_1 & 0 & 0 \\ 0 & \lambda_2 & 0 \\ 0 & 0 & \lambda_3 \end{pmatrix}^{n} = \begin{pmatrix} \lambda_1^{n} & 0 & 0 \\ 0 & \lambda_2^{n} & 0 \\ 0 & 0 & \lambda_3^{n} \end{pmatrix}</math> が成り立つ。<br>
<br>
したがって、<math>P^{-1}A^{n}P = \begin{pmatrix} \lambda_1^{n} & 0 & 0 \\ 0 & \lambda_2^{n} & 0 \\ 0 & 0 & \lambda_3^{n} \end{pmatrix}</math> となる。<br>
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ここで、両辺に対して、右から行列P、左からP<sup>-1</sup>を乗算する時、<br>
<math>
A^n =
\begin{pmatrix}
\lambda_1^{n} & 0 & 0 \\
0 & \lambda_2^{n} & 0 \\
0 & 0 & \lambda_3^{n}
\end{pmatrix}
</math><br>
が求まる。<br>
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2025年1月2日 (木) 10:59時点における版

概要

行列の対角化は、複雑な行列を扱いやすい形に変換する手法である。
与えられた正方行列を、対角成分以外が全て0である対角行列と、その変換に必要な行列の積として表現することである。

対角化は、行列を固有値と固有ベクトルを用いて分解することにある。
行列Aが対角化可能であれば、ある可逆行列Pと対角行列Dが存在し、 という形で表すことができる。
この時、対角行列Dの対角成分には行列Aの固有値が並び、Pの列には対応する固有ベクトルが並ぶ。

対角化は、行列の性質を理解しやすくなることにある。
対角行列は計算が非常に簡単であり、例えば、行列のn乗を求める場合、対角成分をそれぞれn乗するのみで済む。
これは、複雑な行列計算を大幅に簡略化できることを意味する。

しかし、全ての行列が対角化可能というわけではない。
対角化可能性は、固有値の重複度と対応する固有空間の次元に関係する。

実用上は、対角化できない場合のために、ジョルダン標準形等の別のアプローチも用意されている。

対角化の応用分野を以下に示す。

  • 量子力学
    シュレーディンガー方程式を解法時に、ハミルトニアン演算子を対角化することにより、システムのエネルギー固有状態を見つけることができる。
    これにより、原子や分子の振る舞いを理解して、化学反応や物質の性質を予測することが可能になる。


  • 振動系
    機械系や構造物の自然振動数と振動モードを求めることができる。
    例えば、橋梁や高層ビルの設計では、固有振動数を計算して共振を避けることが重要である。
    質量行列と剛性行列から成る系を対角化することにより、それぞれの振動モードが独立に解析でき、構造物の動的な応答を予測することができる。


  • 制御系
    システムの状態方程式を対角化することにより、複雑な多変数系を独立した1次系に分解できる。
    これにより、制御器の設計が簡単になり、システムの安定性の評価も容易になる。
    特に、航空機や宇宙機の姿勢制御、ロボットの動作制御などで広く活用されている。


  • コンピュータグラフィックス
    3次元空間での物体の回転や変形を効率的に計算するために対角化が使用される。
    特に、慣性テンソルの対角化は、剛体の回転運動をシミュレートする時に重要となる。
    また、変形のシミュレーションでは、変形テンソルの対角化により、主ひずみ方向と大きさを求めることができる。


  • データサイエンス
    主成分分析 (PCA) は、高次元データの解析に不可欠である。
    共分散行列を対角化することにより、データの分散が最大となる方向 (主成分) を見つけて、重要でない特徴を削除してデータを圧縮することができる。
    画像認識、音声認識、株価分析等、様々な分野で活用されている。


  • 経済学
    マルコフ連鎖の解析
    マルコフ連鎖の応用は、市場シェアの予測や顧客の購買行動の分析等で重要である。
    遷移行列を対角化することにより、システムの定常状態や収束速度を求めることができ、長期的な市場動向を予測することが可能になる。
    また、金融工学での資産価格モデルやリスク分析にも応用されている。



行列の対角化

対角行列Eは累乗計算が簡単である等の性質があり、対角行列に変換することができればメリットが大きい。

与えられた正方行列Aに対して、 となるような行列Pを作り、
が対角行列になるようにすることを対角化という。


行列の対角化の性質

性質 1

対角行列の積を求めるには対角成分を乗算するだけでよい。



性質 2

対角行列のn乗を求める場合、各対角成分をn乗する。



性質 3

の時、 左辺のn乗については、 が成り立つ。

右辺のn乗については、 が成り立つ。

したがって、 となる。

ここで、両辺に対して、右から行列P、左からP-1を乗算する時、

が求まる。