「線形代数の基礎 - 固有値 固有ベクトル」の版間の差分
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*: 波動関数とハミルトニアン演算子の関係 | |||
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*: 主成分分析 (PCA) での次元削減 | |||
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*: 3D変換の最適化 | |||
*: アニメーションの補間計算 | |||
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*: ポートフォリオ最適化 | |||
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*: 価格変動モデルの解析 | |||
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また、固有値が重複することもあり、これを重複度と呼ぶ。<br> | |||
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例題. | 例題. | ||
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の解が固有ベクトルである。 | |||
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例題. <math>\lambda = 4</math> に対応する固有ベクトル | 例題. <math>A = \begin{pmatrix} 3 & 1 \\ 2 & 2 \end{pmatrix}</math> において、<math>\lambda = 4</math> に対応する固有ベクトル | ||
<math>(A - 4I) \vec{x} = \begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 2 & -2 \end{pmatrix} \vec{x} = 0</math> | <math>(A - 4I) \vec{x} = \begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 2 & -2 \end{pmatrix} \vec{x} = 0</math> | ||
の解が固有ベクトルである。 | |||
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-x + y &= 0 \\ | |||
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より、<math>x = 1, \, y = 1</math> | |||
固有ベクトルは <math>\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix}</math> の定数倍 | |||
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<u>※注意</u><br> | <u>※注意</u><br> |
2025年1月2日 (木) 10:10時点における最新版
概要
固有ベクトルとは、行列による変換を考える場合、方向は変わらず大きさのみが変化するベクトルが固有ベクトルのことである。
固有値とは、大きさの変化の倍率のことである。
したがって、行列による変換の本質的な性質を表現している。
応用分野は非常に広く、以下に示すような分野で活用されている。
- 制御工学
- システムの安定性解析
- 制御系の設計
- 状態空間表現での系の解析
- 量子力学
- 波動関数とハミルトニアン演算子の関係
- エネルギー準位の計算
- 量子状態の解析
- 機械学習・データサイエンス
- 主成分分析 (PCA) での次元削減
- 推薦システムでの特徴抽出
- 画像認識での特徴表現
- 振動解析
- 構造物の固有振動数の計算
- 建築物の耐震設計
- 機械の振動モード解析
- グラフ理論
- ネットワーク中心性の計算
- グラフの連結性の分析
- PageRankアルゴリズムでのWebページの重要度計算
- コンピュータグラフィックス
- 3D変換の最適化
- アニメーションの補間計算
- 画像の圧縮や処理
- 金融工学
- ポートフォリオ最適化
- リスク分析
- 価格変動モデルの解析
現代の科学技術において、固有値問題は、理論的な理解を深める道具、実用的な問題解決の手法、システムの本質的な性質を理解する手段として使用されている。
固有値の性質
n次正方行列には、最大n個の固有値が存在する。
固有値が実数とは限らず、複素数になることもある。
対称行列の場合、全ての固有値は実数になる。
また、固有値が重複することもあり、これを重複度と呼ぶ。
固有値 / 固有ベクトルの定義
固有値・固有ベクトルの定義 が成立する時、 を行列Aの固有ベクトル、 を行列Aの固有値という。 ただし、Aは正方行列、 は でないベクトル、 はスカラーである。
固有空間の定義
固有値および固有ベクトルに関連する概念として、固有空間がある。
固有空間の定義 正方行列Aの固有値 に対して、 で定まる線型空間 のことを、Aの固有値λの固有空間という。
つまり、固有空間とは同じ固有値λに対応する固有ベクトルを集めた集合である。
ただし、ゼロベクトルも固有空間の元である。
特性方程式
- 固有値を求めるために必要な定理
が 行列Aの固有値
この を行列Aの特性方程式 (固有方程式) という。
固有値の求め方
例題.
の固有値を求めよ。
解答. したがって、特性方程式は
したがって、固有値は となる。
固有ベクトルの求め方
例題. において に対応する固有ベクトル の解が固有ベクトルである。 より、 固有ベクトルは の定数倍
例題. において、 に対応する固有ベクトル の解が固有ベクトルである。 より、 固有ベクトルは の定数倍
※注意
3次の正方行列の場合、特性方程式が3次方程式になり、固有ベクトルを3本求める必要がある。